食後、山本の提案で、ススキとお団子を持って、ベランダに出た。

ベランダから見上げる月は、いつもより大きく、はっきり見える。ずっと見ていると吸い込まれそうな気さえしてくる。

ヨーロッパの人々が満月を怖がる気持ちがなんとなく、分るような、そんな気がしてきた。

しばらく、無言で二人で月を眺めていたがが、山本が何かを呟いた。
良く聞き取れなくて、山本の口元を見つめると、ふいに、山本がこっちを向いたので、あわてて、そっぽを向いた。

「獄寺、ウサギ見えるか?」

「は?!」

「月にはウサギが住んでて、十五夜には、餅つきするウサギが満月に描いてあるんだってさ、面白いのな〜♪」

目を輝かせて嬉しそうに語る。まるで、子供に聞かせるようなその喋り方が、なんとなくバカにされてるような気がして、そっけなく返す。

「ウサギなんて、いるわけねーだろ?」

「オレには見えるぜ、ウサギ」

ほら、と指差されて、見上げた満月を、目を凝らしてみるが、ウサギなんて見えない。
自分だけ見えないのは、癪だ。何とか見つけようと月を夢中で見てたら、背後から抱きつかれた。

「おまッ!!!何すんだ、離せコラッ」

突然の不意打ちにあわてて、背中に張り付いた山本を引き剥がそうとするが、体格も腕力も山本には敵うわけがない。

「ん〜獄寺、可愛いッ」

「やめろッ…!!!」

そのまま、包み込まれるように抱かれて、なんとなく安心感を感じてしまう。
逞しい腕にすっぽり包まれて、背中に体温を感じるコトは嫌いではない、嫌いではないが、流石にベランダはまずい。夜も更けてるとはいえ、満月だ、いつ下を通る通行人に見られるか分らないこの状況に、何とか腕から逃れようと、もがく。

「山本、離せッ…」

「嫌だ。離したら獄寺逃げるだろ?」

「逃げねーから、離せッ…よ…」

その言葉に、少し腕の力を緩めた山本の腕の中から抜け出す。

「バカ…見られたらどーすんだ」

「見えないトコならいい…?」

見つめられ、何も言えなくなってしまう…こんな時の山本はめちゃくちゃ、カッコイイ…見つめられると心臓がドキドキ跳ね、思考回路がおかしくなる…。

そっと、山本の袖口のシャツを掴んで、羞恥に俯きながら…

「いい…」

本音を小声で呟いた…。


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